Vol.16 flower RECORD ~Balls Interview

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今聞くべきミュージシャン達の“生の声”をお届けする「flower Record」。

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ボールズは時に“関西のスピッツ”と喩えられるなど、清涼感のあるサウンドが人気だが、過去にはローザ・ルクセンブルグの「橋の下」がセットリストに入っていた時期もあり、“骨太”な音楽的バックボーンも感じさせる5人組バンド。活動当初、ミラーマン名義でサウンドクラウドにアップした「ばんねん」がアジアンカンフージェネレーションの後藤正文に絶賛されたことがきっかけでネット上で話題となり、2013年にミニアルバム『ニューシネマ』をリリース。“ポップ”よりは“オルタナティブ”と呼びたくなるこの傑作アルバムがスマッシュヒットを記録し、翌年2014年にはバンド名を現在のボールズに改名していよいよメジャーデビュー盤の『スポットライト』を完成させる。このアルバムからは「Sing A Song Girl」という珠玉の名曲が誕生。現在のライブでもハイライトの1つになっている。

そして、大型フェスへの参戦や、メンバーが憧れるミュージシャンとの共演を経て、更に音楽的成熟度を増した彼らは、満を持してメジャー2枚目となるアルバム『SEASON』を6月24日に発売することをアナウンス。あらゆる意味で“吹っ切れた”彼らの今のモードとは? 新作発売記念インタビュー、早速どうぞ!

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――今作『SEASON』は前作『スポットライト』に続いて8曲入りですが、この曲数にしているのは何か意図があるのですか。日本では短いスパンでこの規模のリリースを続けるバンドは珍しいと思うんですが。

山本剛義(以下Y):僕の場合、移動中に音楽を聞くことが多いので、それなら8〜9曲が丁度良いかなと。実際にそういう人は多いと思うし、元々ボールズは移動中の風景に合うような雰囲気の曲が多いと思っているんですよね。

 

――今作は全体の流れより各楽曲の強さが際立つアルバムですね。何か明確なコンセプトはありましたか。

Y:あえていうなら “全曲シングル”。前作から、細かい部分でサウンドやリリックはもちろん変えているんですが、全く新しいチャレンジというよりは、今までボールズの音楽が届いていなかった人に届けることを重視していました。普通の高校生にも聞いてもらいたいし。

 

――そう思ったきっかけを教えてください。

Y:去年、ボールズがロックインジャパンに出たんですが、そのステージが全然良くなくて。普段気にも留めていなかったバンドの方が、お客さんとのグルーヴを作り出していたんですよね。それまで「曲が良ければ大丈夫」と思っていましたが、正直ボロ負けでした。去年はそれを引きずっていて、そこから抜け出す方法をずっと考えていましたね。

 

――その中で突破口になった曲は?

Y:うーん、これが、というのはないんですが……例えば、「魔法」「ひみつ」「ギター」「瞬き」がロックインジャパン前に完成していた曲で、それ以外にも曲は書いていたから、当初はこの流れでアルバムを1枚作ってしまおうと思っていました。でも、そのステージを経て得たことを活かして、残りの曲はボツにして、「青写真」「STEP」「ファンタジア」「アンセム」の4曲を追加で書いたんですよ。だから、この4曲はボールズの新しい側面かもしれないです。

 

――前作までは曲のサウンドスケープが抽象的だったと思うのですが、今回はそれぞれの曲が表現している感情がよりシンプルで直接的ですよね。

Y:「誰にどう思って欲しいのか」っていうのが明確ですね。ほとんど問いかけに近いというか。「昔一緒にいたあの人のことを思い出して悲しくなることあるでしょ? おれはあるよ。」って。自分がこんなことをすると思っていなかったけど(笑)。

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――今作を聞いたまわりの人達の声はどうでした?

Y:「ボールズは売れ線になった」と思われるかもしれないけれど……

 

――そこに葛藤はあったんですか?

Y:いや、今回の決断に対して葛藤はなかった。リスナーは僕達が考えていること、言いたいことを“待っている”はずなんです。だから、「僕はこうです」を届けたい。今回は音や歌詞を通じてリスナーともっと密なコミュニケーションをとらないとダメだと思っていたので。

 

――そういう意味で、バンド史上初めて楽曲にストリングスを入れた「STEP」は象徴的だったと思います。

Y:今回は笹路正徳さんに編曲をお願いしたんですが、「この曲に強さが欲しい」というのを伝えたら、「試しにストリングスを入れてみよう」と提案してくれて。僕達も元々興味があって、入れてみたらぴったり合ったんです。変に壮大な、嘘くさい感じにもならなくて。

 

――一方で、前作の「SING A SONG GIRL」のような“ボールズスタンダード”の「ファンタジア」も名曲だと思います。

Y:これはミラーマン時代の空気感が残っていますよね。「瞬き」もそうですが、あんまり考えずに作った、素直な曲なんです。「あ、山本です」みたいな(笑)。あ、でも、これはサビを作るのに時間がかかったな……何十パターンも作って、試行錯誤しました。

 

――メンバーのSNSをチェックしていると、最近はライブをよく観ていますよね。

Y:それまではライブに足を運ぶことが少なかったので。バンドでいうと、indigo la Endやクリープハイプ、plentyのステージは芸術でしたね。人の心を動かすにはここまでやらないといけないのかと。あとは、back numberも凄かったな……

 

――そういえば、山本さんはナオト・インティライミのライブにも行っていましたね。

Y:“ショーみたいなライブ”っていう言い方は陳腐だけど、あれは正にショー。カメラの抜き方、MC、コール&レスポンスのタイミング、全てが完璧でした。ナオトさんって、何でもできる人なんですよ。ギターのカッティングだって異常に上手いし、ボイパもできる。僕が観に行った時は、最後自転車で一周して帰っていった(笑)。でも、全てを嫌味なくさらっとやるから、お客さんは「自分でもできるんじゃないか」と思えるんですよ。

 

――いわゆる“2010年代のインディーズシーン”出身のボールズが、ナオト・インティライミのような存在に刺激を受けること自体が面白いと思います。

Y:そもそもナオトさんのライブを観る前から、大きい会場でライブをしたいとは思っていたんです。自分の音楽だったらそれも達成できると信じていたんですが、1年前に「この音楽をこのやり方でやっていても無理だ」と気付いたんですよ。それで、ナオトさんのライブを観て「これか!」と。

 

――『SEASON』というアルバムタイトルも気になるのですが、これは単純に楽曲のイメージを変換しているだけですか?

Y:そうです、そうです。あんまり意味はないんです。本当はもっと意味をつけようと思っていたんですが……一応メンバーから意見を集めた時に、まずジャスミン(ギター)が『電波塔』というタイトルを出してきて、ダサいから即効でボツ(笑)。阪口(ベース)が言ったのが『エンターテイメント』。でも「俺たちは割りきってやってます」みたいな舐めている感じがして嫌でした。僕はシニカルにしたくなかったんですよ。それなら「これが今出せるベストです」って言いたくて。そのことで言い合って喧嘩になりました。下らないですが(笑)。

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――(flowerプレス 宮川)リアルで生々しい内容のリリックをキャッチーなサウンドに乗せる、そのコントラストがボールズの魅力だと思います。言葉にできない感情をメロディに託すことによって、リスナーが“感じ取る”余白を作っていると思うのですが。

Y:そうかもしれないですね。例えば、僕は恋人に対して「ここから消えてくれ」と言いたくなる時がある。でも、歌詞としてそこまでは書くと直接的に伝わりすぎるから、サウンドをゴリッと強くするみたいな、そういうバランスの取り方ですね。

 

――(flowerプレス 宮川)歌詞についていくつか聞きたいことがあるんです。まずは「魔法」は……

Y:僕、すごく女の子のことが好きなんです(笑)。でも、時々「何を考えているのか分からない」と思うことがあって、そういう曲です。

 

――(flowerプレス 宮川)私は「魔法」のタイトルから勝手にハッピーなイメージを思い浮かべていました。

Y:これは「こんなに腹が立っているのに、何でまた会いに行ってしまうのか」っていう、ちょっとシニカルな目線なんですよ。

 

――(flowerプレス 宮川)次に「STEP」なんですが、パってタイトルだけ見ると前に進んでいる印象があったのに、「まだ間に合うはずだよ」っていうフレーズが「もしかすると過去の恋人に未練が残っていて、後ろ向きなのかな」って。

Y:そういうイメージなんですね……実はこれはボールズと自分自身を、“女の子と僕”という関係性に置き換えている曲なんです。でも、それを歌の中でそのまま言いたくない。そういう意味で言うと、ポジティブな内容なんですよ。

 

――(flowerプレス 宮川)なるほど! それを知ると、「僕らはまだ夢の中」ってとても良い表現ですね。最後、「ファンタジア」の歌詞について、これもちょっと昼ドラっぽいドロッした印象なんですよ。曲はキラキラしているんですが。

Y:ディズニーランド、好きですか? 僕は大好きで、夢の国から帰ってきた瞬間は寂しいんですが、それもネガティブな寂しさじゃないんですよ。「あ〜、良かったな」って。あんまり詳しく解説したくないんですが、まあ、そういう曲です(笑)。

 

――(flowerプレス 宮川)山本さんにとって、歌詞を書くというのはどういう行為なんですか?

Y:自分のことを肯定する作業ですね。ある種のナルシシズムかもしれないです。「おれ、ええやん」っていう(笑)。

 

――ボールズはどういうバンドになりたいですか。

Y:CDをきちんと売りたいです。“新作が待たれる”バンドになりたい。

 

――最後の質問です。今回の制作で気付いた最も重要なことは何でしょう?

Y:自分がメンバー全員を好きやということ(笑)。みんな、めっちゃ音楽に愛があって、頑張ってくれたので。それと、メンバーが優しく接してくれるから、僕みたいな勝手な人間がやっていけているんです。それはほんまに思います。

 

ボールズ │山本剛義(Vo, Gt)、阪口晋作(Ba)、池田健(Gt)、星野“ジャスミン”隼一(Gt)、谷口修(Dr)の5人組。音源で聞くサウンドの印象とは裏腹に、ライブでのメンバーは超エモーショナルなので必見。

 

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 ボールズ『SEASON』 
2015年6月24日発売中  2,160円(税込)

【収録曲】1.青写真 2. STEP 3. ファンタジア 4. 魔法 5. ひみつ 6. ギター 7. アンセム 8. 瞬き

ボールズのメジャー2枚目となるフルアルバム。先行シングル「STEP」をはじめ、快晴の空の向こう側に無理やりサウンドを届かせようとするような、力強いバンドアンサンブルは、正にボールズの“進化”を証明している。聞いた瞬間、これまでのバンド史がフラッシュバックする憂いを含んだ名曲「ファンタジア」、ボールズ流ソウルナンバー「ひみつ」など、どこから聞いてもはっとさせられる会心の出来。

(長畑宏明)