〈Tokyo breakfast〉の第二回目に登場していただいたのは、学芸大学の駅から徒歩5分ほどの路地に佇むLesson。ウェブサイトも持たず、今どき珍しいくらいの地元密着型を貫いている。なかは食堂のような朴訥とした雰囲気で、オーナーの小林さんも話しかけるまでは話しかけてこない。

小林さん「一人でお見えになる女性のお客様が多いので、たぶん自分の時間を満喫したいんじゃないか、と思って僕からは話しかけないようにしています。でも、思ったより話しかけてこられる方が多くて（笑）。」

宮川さん「私も一人のときは本を読むわけでもなく、ぼーっとしています。無の時間って意外にないから……」

手作りのメニューをめくってみると、フレンチトーストとサラダのプレートや、苺と金柑のカラメルベリーソースがかかったパンケーキやフレンチトースト、トーストと野菜チーズオムレツのプレートなどが載っている。宮川さんは悩んだ結果、フレンチトーストとアボガドサラダのセット、セイロンティーをオーダー。

宮川さん「小林さんが料理の道を志したのはいつ頃なんですか？」

小林さん「小学生です。」

宮川さん「え！？何がきっかけだったんですか？」

小林さん「僕の家では家庭料理を親父が作っていたので、その手伝いをしているうちに自然とこの仕事を意識するようになりました。それで、高校を卒業してからすぐに東京のイタリア料理屋に修行に入ったんです。」

宮川さん「料理の世界で修行期間というのはどれくらいなんですか？」

小林さん「10年目でやっと独立、というのが普通だと思います。」

と話しているうちにフレンチトーストとツナサラダが完成。味は甘すぎず、ボリュームもたっぷり。

宮川さん「すごい……！完璧に理想の朝ごはんが出てきました（笑）。こんなにテンションが上ったのは初めてかも。」

BGMにはアメリカの人気シンガーソングライター、ジョン・メイヤーと、イギリスの国民的バンド、トラヴィスの楽曲が交互に流れている。ほんのり陽が差す店内に、優しくおおらかな雰囲気のサウンドが合っている。

宮川さん「小林さんは何時からここで準備を始めるんですか？」

小林さん「朝が8時30分オープンなので、6時くらいですね。普通の料理人に比べたら健康的な生活を送っていると思います。夜までオープンしているとどうしても帰りが遅くなるので。」

宮川さん「ちなみに、学芸大学で夜まで開いているオススメのお店はありますか？」

小林さん「ここの近くなんですが、件（くだん）というおでんのお店は、そのジャンルで一番だと思います。お味噌につけていただくんですが、それだけでお店ができるんじゃないかというくらい美味しいです。大将が男前で、日本酒や焼酎も揃っています。あと、イタリアンではリカーリカが美味しいですね。ゴールデン酒場っていう焼き鳥屋さんも最高だな……新鮮な鳥の刺し身が食べられるんですよ。」

宮川さん「全部行ってみます（笑）。」

美味しい料理を作る人が教えてくれるお店なら間違いなさそう。小林さんにとって良い料理とは何を指すのだろうか。

小林さん「温度が感じられる料理ですね。時々、ものすごく見た目が綺麗な料理でも温度が感じられない料理ってあるんです。ちなみに、僕が最初に憧れた料理人はイタリアンの巨匠であるラ・ベットラの落合務さんで、まだ料理本がそんなに多く出版されていない時代にこの方は本を出されていて、僕はそれを紙がペラペラになるまで読み込んでいました。」

Lessonにある居心地の良さは“温度”が伝わるその料理に起因するのかもしれない。また、カウンターの席からは小林さんが料理を作っているところが全部見渡せてしまう。

小林さん「ここに来られる女性のお客様が、キッチンを見て勇気づけられるとおっしゃるんです。こんな設備でもちゃんと料理ができるんだ、って（笑）。たしかに、ここは僕が今まで経験してきたなかで最低限の設備ですが、そこで何とかやりくりするのも料理の大事なポイントです。また、メニューはお気に入りの八百屋さんでその日に入荷した野菜や果物を見てから決めます。」

わざわざ朝早く起きる理由が欲しいと思ったら、ぜひ学芸大学のLessonに足を運んでみてください。

Lesson